エッジコンピューティングとは? メリットや課題をわかりやすく



近年、DXの推進や5Gの登場によって“エッジコンピューティング”という言葉をよく耳にするようになりました。

エッジコンピューティングは、従来のクラウドコンピューティングに代わり、エッジ側でデータ処理を行うネットワーク技法のことです。大量のデータを取り扱う現場においては、ネットワークの負荷や通信遅延などの課題を解決するために、エッジコンピューティングの技術が取り入れられています。

この記事では、エッジコンピューティングの概要をはじめ、メリットや課題について解説します。


目次[非表示]

  1. エッジコンピューティングとは
    1. エッジコンピューティングによる課題の解消
    2. 5Gへの期待
  2. エッジコンピューティングのメリット
    1. ①通信量の削減
    2. ②データトラフィックの最適化
    3. ③セキュリティリスクの低減
    4. ④BCP対策の強化
  3. エッジコンピューティングの課題
    1. コストが高額になる
    2. 運用管理が複雑になる
    3. 端末側のセキュリティ対策が限られる
  4. エッジコンピューティングが活躍する分野
    1. 自動車業界
    2. 農業
    3. 製造業
  5. エッジコンピューティングの活用事例
    1. 事例①プラント設備のデータ収集
    2. 事例②販売機械の改善提案・故障対応
    3. 事例③オフィス内の使用状況の可視化
  6. まとめ


エッジコンピューティングとは

ネットワークのなかで使われるエッジとは、末端機器(データの活用現場)のことです。具体的には、データの発生源となる工場の製造設備がエッジに当たります。“エッジ(edge)”は、日本語で“端”を指します。


エッジコンピューティングによる課題の解消

IoT(Internet of Things:モノのインターネット)の普及に伴って、あらゆる設備機器から取得した膨大な量のデータがクラウド上に送られるようになりました。そうしたなか、クラウドサーバーやネットワークへの負荷がかかることで、データ処理速度の遅延を招き、リアルタイムなデータ連携を行えないといった問題があります。

このような課題を解消するために用いられるのが、エッジコンピューティングです。エッジコンピューティングでは、システムの末端(エッジ)にデータ処理・保管を分散配置することで、上位の演算や通信の負荷を軽減できます。ネットワークの経路に負荷が集中するのを防ぐことで、遅延が減少して、データの処理速度が向上します。このような仕組みは“エッジ処理”とも呼ばれています。

こちらの記事では、IoTの基礎知識について解説しています。

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5Gへの期待

2020年3月には、新たな通信規格となる“5G”の商用サービスが開始されました。5Gは、超高速・超低遅延・多数同時接続といった特徴を備えた第5世代移動通信システムのことです。IoTやAIの活用に欠かせないICT基盤になることが期待されています。

高速かつ遅延の少ないデータ通信を実現するエッジコンピューティングは、5Gの性能を最大限に生かすネットワーク構造として相性がよいとされています。

5Gについては、こちらの記事をご覧ください。

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出典:総務省『令和2年版 情報通信白書』『第5世代移動通信システム(5G)の今と将来展望



エッジコンピューティングのメリット

エッジコンピューティングには、通信料の削減やBCP対策の強化などさまざまなメリットがあります。


①通信量の削減

利便性の高さから、クラウドを活用してデータの集約を行うケースがあります。しかし、クラウド環境は通信速度に依存するため、状況によっては多くの転送コストが必要です。

エッジコンピューティングの場合は、クラウド環境にデータを集めて処理をする方法と比べて、物理的に近い距離にデータが存在するため、通信量の削減につながります。


②データトラフィックの最適化

エッジコンピューティングは、データトラフィックの最適化にもつながります。

日常のあらゆる場所でIT技術が活用されている今、国内におけるデータトラフィックは増加の一途をたどっています。

2020年には5Gの導入も始まり、さまざまな分野でIoT機器の導入が進むなか、データトラフィックは更に増加すると見込まれます。トラフィックが増加して処理が集中すると、サービスや業務品質の低下につながるほか、クラウド環境に障害を起こす原因にもなります。

エッジコンピューティングであれば、末端のデバイスが処理するため、ネットワーク通信を必要としません。これにより、処理スピードが向上して、リアルタイム性を維持できるようになります。


③セキュリティリスクの低減

ネットワーク通信におけるセキュリティリスクを低減できることも、エッジコンピューティングのメリットの一つです。

IoT機器・センサーで取得したデータをクラウドに転送する際には、外部のネットワークを経由する必要があるため、情報漏洩やサイバー攻撃などのリスクがあります。

エッジコンピューティングの場合、エッジ側で処理したデータのうち、蓄積が必要なデータのみをクラウドに伝送するため、セキュリティのリスクを低減できます。


④BCP対策の強化

エッジコンピューティングは、企業のBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)対策にも役立ちます。

BCP対策とは、自然災害やシステムエラーなどの緊急事態が発生した際に、被害を最小限に抑えて事業を継続するための対策のことです。

クラウドコンピューティングの場合、クラウドサーバーの故障・エラーによって、データ処理や確認ができなくなると、業務を停止せざるを得なくなる可能性があります。

エッジコンピューティングであれば、クラウドサーバーが停止した場合でも、データの処理・活用ができるため、復旧までの間、一部の業務を継続することが可能です。



エッジコンピューティングの課題

エッジコンピューティングには、以下のような課題があります。


▼エッジコンピューティングの課題

  • コストが高額になる
  • 運用管理が複雑になる
  • 端末側のセキュリティ対策が限られる


コストが高額になる

エッジコンピューティングは、IoT機器やセンサーなどの端末に物理的に近い位置にエッジサーバーを設置する必要があります。そのため、規模が大きくなるほど多数のハードウェアが必要となり、イニシャルコストが増加します。


運用管理が複雑になる

ハードウェアの数が増えるほど、システムが複雑化して運用管理が煩雑になったり、保守管理のランニングコストが増加したりするおそれもあります。

導入する際は、エッジ側・クラウド側で処理するデータを分類して、遠隔地にいながらエッジサーバーを一元管理できる運用体制を構築することが重要です。


端末側のセキュリティ対策が限られる

リソースが限られたエッジ端末では、適用できるセキュリティ対策が限定的となってしまうことがあります。セキュリティ対策が十分でないエッジ端末は、外部からの攻撃を受けやすく、機密情報が蓄積されたクラウドへの侵入を許すことにもなりかねません。

IoT機器のなかには、セキュリティ設定がない製品もあります。導入する際は、セキュリティ対策のある製品を選ぶとともに、通信プロトコルの暗号化やゼロトラストセキュリティモデルを構築するなどの対策を講じることが重要です。

※ゼロトラストセキュリティモデルとは、社外・社内といったネットワークの境界に関係なく、アクセスの都度、認証・許可を行うセキュリティ対策の考え方のこと。

総務省『IoTセキュリティガイドラインver1.0



エッジコンピューティングが活躍する分野

エッジコンピューティングは、多数の端末とのデータ収集が必要になる分野や、リアルタイムなデータ処理が求められる分野で取り入れられています。


自動車業界

エッジコンピューティングが活躍する分野の一つに、自動車業界における自動運転が挙げられます。

自動車やロボットなどの自動運転は、カメラ・センサーで読み取ったデータに基づいてリアルタイムでの処理を行い、本体へフィードバックすることで動作する仕組みです。

その際、データの伝送や処理に遅延が生じると、事故につながるリスクがあるため、遅延のない高いリアルタイム性が求められます。

エッジコンピューティングは、本体に物理的に近い場所でデータ処理を行うため、瞬時の判断が可能となり、安全な運転を実現できます。


農業

スマート農業の実現に向けて、エッジコンピューティングが取り入れられています。

スマート農業を実現するには、農業機器やドローンなどから取得した膨大なデータを収集して、効率的に処理する仕組みが必要です。

エッジコンピューティングを活用すれば、センサーから取得した温湿度・日射量などのデータをエッジサーバーのAIが分析して、自動潅水を行うことが可能です。これにより、農作業の自動化、生育環境管理の品質向上につながります。


製造業

スマートファクトリーの実現にも、エッジコンピューティングが活用されています。

スマートファクトリーを実現するには、工場内のあらゆる設備機器のデータを取得して管理する仕組みが必要です。ただし、ネットワーク通信環境に負荷がかかるといった問題があります。

エッジコンピューティングを取り入れることで、ネットワークの負荷が分散されて、安定した通信を維持できるようになります。

瞬時の判断が求められる生産ラインでの不良品の検出や、AR・MRによる遠隔地からの作業支援などに活用されています。

なお、スマートファクトリーについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

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エッジコンピューティングの活用事例

コネクシオが提供しているエッジコンピューティング・ゲートウェイ『CONEXIOBlackBear』の活用事例を紹介します。


事例①プラント設備のデータ収集

プラント運用を行う日工株式会社さまでは、設備機器のデータ活用に向けてエッジコンピューティングを活用されています。


▼課題
従来は人がプラントの監視作業を行っており、タイムリーな情報を取得できていませんでした。また、各種部品の損耗状態を把握できず、顧客に対して計画的なメンテナンス提案をするのが難しいといった課題も抱えていました。


▼導入内容


プラント設備の状態を可視化するために、CONEXIOBlackBearを導入されました。プラントのPLCを通じて、各種設備機器のデータを自動収集できる仕組みを構築しました。


▼効果
遠隔地でプラントのリアルタイム監視ができるようになり、プラント運用の効率化を実現しました。また、取得したデータを活用して、予兆保全・燃費効率向上・二酸化炭素削減に向けた分析を多角的に行えるようになりました。

こうした分析・保守運用の仕組みを、顧客向けのサブスクリプション型サービスとして提供することで、サービス品質向上、顧客満足度向上につなげています。


事例②販売機械の改善提案・故障対応

土木・建設や鉱山開発などで活用する特殊機械の販売を行っている、古河ロックドリル株式会社さまの事例を紹介します。


▼課題
販売した機械が遠隔地で使用されるため稼働状態を把握できず、販売後の顧客へのサポートが限定的になっていました。


▼導入内容


販売後の機械のサポートを実施するために、稼働・操作データを取得する必要があり、車両に搭載できるCONEXIOBlackBearを導入されました。機械の稼働状態を遠隔から把握できる仕組みを構築して、データの蓄積・解析を行えるようにしました。


▼効果
機械の稼働状態を可視化することで、予防保全の実現や修理費用の低減、故障時の迅速な修理対応を実現しました。これらの仕組みを顧客向けのサブスクリプション型保証プログラムとして提供することで、継続的な関係構築につながっています。


事例③オフィス内の使用状況の可視化

オフィス内施設の使用状況を可視化するために、エッジコンピューティングを活用されたウイングアーク1st株式会社さまの事例を紹介します。


▼課題
会議室の空予約が頻繁に発生しており、仕事効率が低下していました。また、トイレの待ち時間が面倒という社員の困りごとも見られていました。


▼導入内容



人感センサーやドアの開閉センサーを設置して、そこからデータを集められるCONEXIOBlackBearを導入されました。これにより、遠隔地から施設の使用状況を確認できる仕組みを構築しました。


▼効果
施設の使用状況を把握することで、無駄な待ち時間や確認の手間を削減できるようになりました。会議室の未使用率の減少や、会議の効率向上にもつながったとのことです。



まとめ

この記事では、エッジコンピューティングについて以下の内容を解説しました。


  • エッジコンピューティングの概要
  • エッジコンピューティングのメリット
  • 導入・運用の課題
  • 活躍する分野
  • 3つの活用事例


エッジコンピューティングでは、システムの末端にデータ処理・管理を分散配置することで、ネットワーク通信の負荷を軽減できます。

クラウドコンピューティングと比べて、通信速度が速くなり、リアルタイムなデータ処理が可能になることが特徴です。クラウドサーバーとのやり取りで発生する通信量の削減や、データトラフィックの最適化、セキュリティリスクの低減、BCP対策の強化などのメリットがあります。

ただし、ハードウェアの数が増えるほどコストが高額になるほか、運用管理が煩雑になる、端末側のセキュリティ対策が限定的になるといった課題もあります。

導入する際は、エッジ側で処理するデータの分類や、遠隔地からエッジサーバーを管理できる環境の構築、端末側も含めたセキュリティ対策を行うことが重要です。
 
コネクシオでは、エッジコンピューティング・ゲートウェイの『CONEXIOBlackBear』をご提供しています。4コアCPU・GPUを搭載しているため、CONEXIOBlackBear内でのAI・画像処理・データ分析の高速処理を実現します。

詳しくは、こちらからご確認ください。


なお、IoTゲートウェイの概要や役割については、こちらの記事をご覧ください。

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