スマートファクトリーとは? メリットと推進方法を解説
※2022年12月9日更新
製造業における業務効率化や品質安定化の取組みの一つとして、“スマートファクトリー”が挙げられます。
ドイツ政府が提唱した製造業の革新を目指すプロジェクト、“インダストリー4.0(第4次産業革命)”からスマートファクトリーが注目されるようになりました。
スマートファクトリー化の取組みを進めるにあたって、具体的な方法やポイント、現場での実施事例について把握しておきたいと考えている担当者の方も多いのではないでしょうか。
この記事では、スマートファクトリーの概要やメリット、スマートファクトリー化を推進するための方法、取組み事例などをご紹介します。
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スマートファクトリーとは
スマートファクトリーとは、IoTやAI、ビッグデータなどを活用して、稼働の最適化を実現する工場のことです。
スマートファクトリーでは、工場内の設備・機器をIoT化したり、AIを導入したりすることで、稼働状況や経営資源の情報を集約・可視化できることが特徴です。収集したビッグデータを分析してシミュレーションを行うことで、製造プロセスを改善して、より生産性の高い稼働を実現できます。
また、IoTセンサーやカメラ、AI、遠隔監視システムなどを用いることで、生産機械・設備の自動化、遠隔制御が可能になります。これにより、人に依存する作業がなくなり、業務の自動化や現場の省人化、品質の安定化などにつながります。
5Gをはじめとする次世代の無線通信技術が登場したことで、製造現場と生産システムの連携や、スマートファクトリーの実現に寄与すると期待されています。
スマートファクトリーの基盤となるインダストリー4.0について
スマートファクトリーの基盤となる概念として、ドイツ政府が提唱した“インダストリー4.0”があります。
インダストリー4.0とは、“第4次産業革命”という意味を持つ名称で、ドイツ政府の産業政策として2011年に公表されました。
人や機械、そのほかの企業資源が互いに通信を行い、情報共有を行うことで、製造プロセスの円滑化をはじめ、既存のバリューチェーンの変革、新たなビジネスモデルの構築をもたらすことを指しています。
このインダストリー4.0は、これまでに起きた第1次産業革命から第3次産業革命の後に続く歴史的な変化として位置づけられています。
▼インダストリー4.0(第4次産業革命)までの変化の流れ
第1次産業革命 |
水力・蒸気機関を活用した機械製造設備の導入 |
第2次産業革命 |
石油・電力を活用した製造業の大量生産化 |
第3次産業革命 |
IT技術を活用した製造・流通業の自動化 |
第4次産業革命 |
人・モノ・システムなどの相互接続による製造の自律化 |
総務省『平成30年版 情報通信白書』を基に作成
インダストリー4.0を実現するには、スマートファクトリーを中心としたシステム構築が必要とされています。
出典:総務省『平成30年版 情報通信白書』
今スマートファクトリー化が求められる理由
国内でスマートファクトリー化が求められる理由の一つに、人手不足が挙げられます。
経済産業省の『令和2年度 ものづくり基盤技術の振興施策』によると、ものづくり企業が直面している経営課題として、以下の回答した企業が多くを占めています。
▼回答例
- 人材育成・能力開発が進まない
- 価格競争の激化
- 人手不足
- 売り上不振
▼ものづくり企業における経営課題
画用引用元:経済産業省『令和2年度 ものづくり基盤技術の振興施策』
企業の約7割が人手不足を感じている状況です。
スマートファクトリー化でIoTやAIによるデータ活用が可能になれば、これまで人の手で行ってきた業務の自動化・効率化の実現につながります。これにより、品質や生産性の向上につながる業務に人材リソースを割くことができます。
また、経済産業省の『2020年版 ものづくり白書 概要』によると、「機械の稼働状態やデータの可視化を行っているか」という問いに対しては、「可能であれば実施したい」「実施する計画がある」と答えた企業の割合が5割近くを占めています。
▼データ利活用に取組んでいる企業の割合(国内製造業)
画像引用元:経済産業省『2020年版 ものづくり白書 概要』
このような背景から、今後も製造業のスマートファクトリー化が進むことが予想されます。
“IoTを用いた労働改革”に関するお役立ち資料はこちらをご覧ください。
出典:経済産業省『令和2年度 ものづくり基盤技術の振興施策』『2020年版 ものづくり白書 概要』
スマートファクトリー化を行う3つのメリット
スマートファクトリー化を行うことで期待できるメリットは大きく分けて3つあります。
①生産性の向上
工場内の設備・機器の稼働状況をデータ化して可視化することにより、非効率な工程や作業が明確になるため、生産性の向上につながる改善策を検討できます。
②技術継承の効率化
工場内のあらゆる機器や設備からデータを収集・蓄積することにより、従業員の習熟度をデータベース化することが可能です。
そのデータを分析することで、技能やノウハウを体系化できるため、技術の継承を行いやすくなります。自社に必要な人材を育成することで人手不足の解消にも貢献します。
③予兆保全による稼働の安定性
IoTやAI活用によって設備・機器の状況をリアルタイムに把握できるため、故障・不具合が発生する前にメンテナンスを行うことが可能です。
設備・機器の異常検知や予兆保全を行うことにより、トラブルで利用停止している時間をなくし、安定かつ継続的な稼働を実現します。
“自社診断用チャート”の付いたIoTお役立ち資料はこちらをご覧ください。
スマートファクトリー化を推進する主な方法
経済産業省は、製造業のスマートファクトリー化を推進するためのポイントを紹介しています。ここでは、3つのステップごとにポイントを解説します。
Step1:スマートファクトリー化の構想を策定する
まず、スマートファクトリー化を進める前に、目的や目標を明確にします。
自社の戦略や課題に応じてスマート化できる内容と対象範囲などを検討するとともに、コスト・投資効果も設定します。組織内での責任や役割を明確にして、全体の共通認識を図ったうえで、トップ主導で進めていくことがポイントです。
Step2:システム導入・トライアルを行う
次に行うのが、システム導入・トライアルです。
スマートファクトリー化を実現するには、工場全体の最適化を想定しつつ、段階的にシステム導入を進めていく必要があります。
自社の課題解決に適したシステムを選定する、必要なデータや機能を絞り込むなど、導入効果が表れやすい小規模な箇所からスタートするのがポイントです。短いサイクルでPDCA(Plan・Do・Check・Act)を繰り返すことで、運用の精度を高められます。
Step3:運用する
最後のステップが運用です。
スマートファクトリー化に向けたシステム導入を行ったあとは、導入効果を分析して、定量的に評価することが重要です。具体的にどのような効果が得られたかを組織内で共有することで、従業員のモチベーションを高めて、運用を定着化させます。
また、PDCAを短いサイクルで回して、システムや運用方法の見直し・改善を図ることで運用の質の向上、さらに定着化につながります。
さらに、スマートファクトリー化を目指すうえでは、自社の課題を解決できるシステムの活用も欠かせません。
コネクシオでは、スマートファクトリー化を支える『Smart Ready IoT ソリューションセット』を提供しています。Smart Ready IoTは、センサーからIoTゲートウェイ、ネットワーク、クラウドサービスまでワンストップでサポート。実装から本番化、運用まで対応しているため、IoTの専門的な知識がなくても安心です。
スマートファクトリー化を進めるためのポイント
スマートファクトリー化を進めるためのポイントとして、データの可視化・制御・自動化といった3つが挙げられます。
ここでは、それぞれのポイントについて解説します。
①データの可視化
スマートファクトリー化を進めるためには、まずは設備機器の稼働状況や経営資源などの情報を可視化する必要があります。
製造現場にIoTやITを導入して、製造機械・設備のデータを収集・蓄積できる環境を構築します。
データを収集・蓄積する方法としては、以下が挙げられます。
▼データを収集・蓄積する方法
- 製造設備にIoTセンサーを取り付けて、稼働データをシステムに集約する
- ERPシステム(※)を導入して、人・モノ・カネ・情報などの企業資産を一元管理する
- 施設内や製造機械にIPカメラを取り付けて、遠隔地のシステムに送信して、リアルタイムで監視する
※ERPとは、企業資源計画(Enterprise Resource Planning)を意味しており、企業の経営資源を一元管理するシステムのこと。
②設備・機械の制御
スマートファクトリーを実現するには、工場内にある設備・機械を制御できる仕組みを構築することも必要です。工場内の設備・機械を制御する方法には、AIや遠隔操作システムの活用が挙げられます。
AIのディープラーニングを活用すると、人が行ってきた作業をAIに学習させることができます。そして、設備・機械から収集したデータを基に、AIが特徴や規則性を抽出することで、自律的な判断を実現します。
また、遠隔操作システムでは、遠隔地にある設備・機械にPLC(Programmable Logic Controller)装置(※)を設置して、システム上で操作・監視・制御することが可能です。
たとえば、以下のような活用方法が挙げられます。
▼遠隔操作システムの活用例
- IoTセンサーでプラント設備の温度・圧力を取得して、AIが自動制御を行う
- 排水ポンプにPLC装置を設置して、指定した条件で自動制御を行う
※PLC装置とは、設備・機械を自動的に制御する装置のこと。
③作業の自動化
スマートファクトリー化を進めるうえでの最後のポイントとして、作業の自動化が挙げられます。
IoTやAI、システムの活用によって、これまで人が行ってきた作業を自動化することが可能です。これにより、現場の省人化、品質の安定化につながるほか、自律的な稼働を実現できます。
具体例として、以下が挙げられます。
▼自動化の例
- 工場内の生産データを分析して、AIによる生産計画と人員配置を行う
- 産業用ロボットを導入して、検品・組立てなどの作業を自動化する
- 設備・機械のメーターをIPカメラで読み取り、点検業務を自動化する
スマートファクトリーの取組み事例
ここからは、スマートファクトリーの実現に向けて、IoTやAI、ビッグデータの活用を行っている事例を紹介します。
IoT導入による加工条件の最適化
自動車や産業用部品の設計・開発、金型製作、金属加工などを行う企業では、工作機械にIoTを導入して、加工条件の最適化につなげています。
▼背景
金型部品の複雑形状化や大型化へのニーズの強まりを背景に、より高い精度が求められるようになり、研磨加工が欠かせない状況となっていました。また、短納期に対応するために、研磨加工の時間短縮も必要でした。
▼スマート化の取組み内容
工作機械にIoTを導入してネットワークにつなぐことで、作業員が加工状況を監視・可視化できる仕組みを構築しました。
また、工作機械のモーター電流値を吸い上げ、加工データと稼働実績と照合することで、最適な加工条件を分析しました。
▼効果
金型部品の高精度化につながったほか、これまで15分要していた加工時間を8分に短縮できたとのことです。
出典:経済産業省『「 スマートファクトリーロードマップ 」〜 第4次産業革命に対応したものづくりの実現に向けて 〜』
IoT×AIを用いたモニタリングサービスの提供
自動車部品の製造を行う企業では、IoT×AIを用いたモニタリングサービスを開発して、外販に向けて取組んでいます。
▼背景
部品の受注増加に伴い、設備の増設または生産性向上による増産を求められており、そのためには各設備の稼働状況や生産時間を把握することが必要でした。しかし、ストップウォッチでの計測では正確に把握できず、ホワイトボードに書き込む時間もありませんでした。
▼スマート化の取組み内容
ソフトウェア開発企業と協力のもと、製造設備の稼働データを収集して、クラウド経由で端末から稼働状況を確認できる仕組みを構築しました。これにより、設備の稼働・休止状況や所要時間をリアルタイムで把握できるようになりました。
▼効果
1時間当たりの生産個数が7割上昇したほか、予定していた生産ラインの増設が不要となり、設備投資費用の削減につながりました。また、構築した仕組みは競合他社にも需要があることを踏まえて、外販準備を進めているとのことです。
出典:経済産業省『「 スマートファクトリーロードマップ 」〜 第4次産業革命に対応したものづくりの実現に向けて 〜』
まとめ
この記事では、スマートファクトリーについて以下の内容を解説しました。
- スマートファクトリーの概要
- インダストリー4.0について
- スマートファクトリー化が求められる理由
- スマートファクトリー化を行う3つのメリット
- スマートファクトリー化の方法とポイント
- 企業の取組み事例
スマートファクトリーは、製造業の課題である人手不足から派生するさまざまな問題を解消に導きます。工場の製造プロセスの最適化や生産性の向上、ノウハウの体系化、予兆保全などに役立ちます。
スマートファクトリー化を実施する際は、小規模からスタートして、導入効果をモニタリングしながら細かなPDCAを繰り返し回していくことが大切です。
また、実際にIoTやAIを導入する際は、データの可視化・制御・自動化といった3つに着目して、導入設備、システム構築の計画を立てることがポイントです。
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