
製造業におけるIoT導入の課題と解決策を詳しく解説
近年のウクライナ戦争や国際情勢の変化、原材料・燃料価格の高騰などにより、製造業の環境は大きく変動しています。
こうした変化に対応し、安定的かつ持続可能な稼働を実現するには、デジタル化による組織能力の強化が不可欠です。そのためにはIoTやAIの活用が重要であり、人口減少が進む中で経済・社会の持続的成長を支えるためにも、製造業のデジタル革新が求められています。
本記事では、IoT導入の課題やメリット、解決策、事例について解説します。
目次[非表示]
- 1.製造業におけるIoT導入の課題
- 1.1.IT人材の不足
- 1.2.セキュリティリスクの増加
- 1.3.データ管理とプライバシーの問題
- 2.製造業にIoTを導入するメリット
- 2.1.作業の効率化・省人化
- 2.2.品質の安定化
- 2.3.稼働停止リスクの低減
- 2.4.デジタルツイン技術の利用
- 3.IoT導入に向けた課題の解決策
- 3.1.①IT人材の育成・確保
- 3.2.②想定されるリスクに応じたセキュリティ対策
- 3.3.③データの効率的な管理方法とプライバシー保護
- 4.IoTを導入するときのポイント
- 4.1.現状を把握して課題を見極める
- 4.2.求める効果と費用をあらかじめ設定する
- 4.3.活用できる仕組みを作る
- 5.製造業におけるIoT技術の進化と将来の展望
- 5.1.AIとIoTの融合による新たな可能性
- 5.2.新たな通信技術との融合・相乗効果
- 6.まとめ
製造業におけるIoT導入の課題
IT人材の不足
『平成30年版 情報通信白書』によると、日本企業におけるIoTの導入課題として、IT人材の不足が多くの割合を占めています。特に日本は、他国と比較して突出してIT人材不足が深刻となっています。
図1. IoTの導入にあたっての課題
画像引用元:総務省『平成30年版 情報通信白書』
出典:総務省『平成30年版 情報通信白書』
セキュリティリスクの増加
IoTを導入することで、これまでインターネットに接続されていなかった生産設備・機器などをインターネットに接続することが可能です。しかし、外部からの不正アクセスやサイバー攻撃のリスクが増加することが懸念されます。
『令和5年版 情報通信白書』によると、2022年は2021年に比べ、IoT機器を狙った通信が大幅に増加し、サイバー攻撃関連通信全体の3割を占めています。
図2. 大規模サイバー攻撃観測網NICTERにおけるサイバー攻撃関連の通信の内容
画像引用元:総務省『令和5年版 情報通信白書 第2部10節 サイバーセキュリティの動向』
サイバー攻撃によってシステム障害が発生すれば、設備の不具合による事故や重要データの漏洩につながる恐れがあります。
出典:総務省『令和5年版 情報通信白書』『IoTセキュリティガイドラインver1.0』『国民のためのサイバーセキュリティサイト』
データ管理とプライバシーの問題
IoT導入に伴い、大量のデータが生成・収集されます。これによりデータの管理やプライバシーの保護が重要な課題となります。データの漏洩や不正利用を防ぐためには、データ管理の効率化とセキュリティ対策が不可欠です。具体的には、暗号化技術の導入やアクセス制限の強化が考えられます。
さらに、従業員に対するデータ管理の重要性を教育し、組織全体での意識向上を図ることが、実践的なポイントです。
製造業にIoTを導入するメリット
作業の効率化・省人化
IoTを導入すると、IoTセンサーやカメラで稼働データを取得して監視したり、自動制御したりできるようになります。これまで人が行ってきた巡回点検や目視での検品作業、温度管理を自動化することで、業務の効率化・省人化につながります。
品質の安定化
人手による点検・検品の作業をIoTによって自動化することで、人的ミスを削減して、勘や経験に依存しない生産体制を構築することが可能です。これにより、製品の品質安定化につながります。
稼働停止リスクの低減
それまで人手や目視に頼っていた生産設備の点検を、IoTで常時稼働監視することで、設備の異常を即座に検知し、すぐに修復対応することが可能となります。
さらに、データを蓄積していけば、正常と異なる動きを検知して、トラブルが発生する前にメンテナンスする「予知保全」も可能となります。
生産設備の故障・事故を未然に防ぐことで、稼働停止ロスの防止、設備保全にかかる労力・コストの削減が期待できます。
デジタルツイン技術の利用
デジタルツイン技術は、物理的なオブジェクトやシステムのデジタルコピーを作成し、リアルタイムでモニタリングやシミュレーションを行う技術です。これにより、品質向上、コスト削減、開発期間短縮が可能となり、適正な生産管理や在庫管理も実現できます。
具体例として、自動車や空調機の製造、水素製造プラントなどにおいてデジタルツインを活用することで、製造プロセスの最適化が図られています。
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IoT導入に向けた課題の解決策
①IT人材の育成・確保
1つ目は、IT人材の育成・確保です。既存の人材に対してデジタル技術の研修・教育を行うほか、外部への依頼も検討する必要があります。セキュリティ対策の重要性を理解してもらうために、従業員へ定期的にITリテラシーを向上する研修・勉強会を開くことも大切です。 また、IoT機器を上手に活用するために、作業標準書や作業手順書、従業員のスキルマップを整備することも重要です。
▼IT人材の育成・確保に向けた取組み例
- 公共職業能力開発施設で行われているものづくり分野中心の職業訓練を受けてもらう
- 現場の業務内容に精通する従業員を中心に指導・教育を行う
出典:経済産業省『2022年版 ものづくり白書』
②想定されるリスクに応じたセキュリティ対策
2つ目は、インターネットからの新たな脅威を想定して、リスクに応じた適切なセキュリティ対策を講じることです。
事前に、工場内の設備にIoT機器を設置するとどのようなセキュリティリスクがあるのか、問題点を洗い出すことがポイントです。具体的な対策として、VPN SIMなどインターネットを介さない通信サービスを利用する、EPP(End Point Protection)など外部のセキュリティサービスを利用する、強固な認証システムを導入するといった方法が挙げられます。
▼セキュリティ対策を行う際の流れ
画像引用元:経済産業省『「⼯場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドライン」概要資料』
出典:総務省『IoTセキュリティガイドラインver1.0』/経済産業省『「⼯場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドライン」概要資料』
③データの効率的な管理方法とプライバシー保護
3つ目は、データ管理の効率化とプライバシー保護です。
これらを実現するためには、クラウド技術を活用した集中管理システムの導入が有効です。個人情報の取り扱いに関するポリシーを明確化し、従業員全体に浸透させることで、プライバシー保護の意識を高めることができます。
IoTを導入するときのポイント
自社の工場にIoTを導入するためには、以下の3つのポイントを押さえることが大切です。
詳しく見てみましょう。
現状を把握して課題を見極める
まずは現状を把握することが大切です。自社の置かれている状況を把握し、現状の課題を洗い出します。どのような点が妨げとなっているのか、改善する必要がある部分はないかなどを見極めましょう。
求める効果と費用をあらかじめ設定する
IoTによってどのような効果を求めているのかを明確にしましょう。IoTは、これまで人が行っていた業務を自動化して、業務効率や生産性を高めます。ただし、環境や課題によって必要なIoTは異なります。何を実現するためにどのような効果を得たいのか、目的を整理することが大切です。
また、導入の規模によって必要な費用は異なります。あらかじめ費用を設定し、そのなかでもっとも費用対効果の高い製品・サービスを選択しましょう。
活用できる仕組みを作る
工場の設備や機器をIoT化するためには、データを活用できる仕組みも不可欠です。IoT化した工場は、常にインターネットと接続された状態になるため、インターネットの知識は当然ながら、セキュリティの知識も必須と言えるでしょう。
さらに、データを収集するIoT製品と、そのデータを分析し制御するためのシステムなども必要となります。ソフト・ハードの両面で活用できる仕組みづくりが大切です。
製造業におけるIoT技術の進化と将来の展望
AIとIoTの融合による新たな可能性
AI技術とIoTの融合は、製造業において新たな可能性を生み出します。AIによるデータ分析とIoTのセンサー技術を組み合わせることで、より高度な予測・制御が可能になり、生産効率の向上や品質管理の精度が高まります。
実際の例として、AIを用いた設備の故障予測や、自動化された製品検査の精度向上が挙げられます。これにより、製造業の未来はより効率的かつ安全なものへと進化することが期待されています。
新たな通信技術との融合・相乗効果
ローカル5Gといった高速大容量通信や、これまで4G電波が届かなかった山間部や海上でも通信できる衛星通信など、通信技術の進化でIoTの可能性が広がっていきます。
まとめ
この記事では、製造業におけるIoT導入について以下の内容を解説しました。
- IoT導入の課題
- IoTを導入するメリット
- IoT導入における課題解決策
- IoTを導入するときのポイント
- 製造業におけるIoT技術の進化と将来の展望
製造業にIoTを導入すると、作業の効率化・省人化、品質の安定化、稼働停止の防止などさまざまなメリットが期待できます。
しかし、生産設備がインターネットにつながることによるセキュリティリスクや、IT人材不足の課題があり、IoT導入の障壁となっているケースもあります。
IoTを導入する際は、リスクに応じたセキュリティ対策の実施や、IT人材の育成・確保に取組むことが大切です。
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