
農業IoTで実現するスマート農業とは?導入事例と効果的なソリューション
現在、国内の農業は、生産者の高齢化や減少による人材不足、異常気象による農作物への被害といったさまざまな課題を抱えています。特に人手不足が与える影響は大きく、労働力が不足することによる栽培面積の縮小や廃園を強いられる可能性もあります。そうなってしまった際に懸念されるのは、生産量や売り上げの減少です。
このような課題が懸念されるなか、農業IoTを活用した生産管理や品質管理、流通など、農業経営全体の効率化を実現する"スマート農業"が注目されています。
しかし、「農業IoTの種類や活用方法が分からない」「スマート農業の導入コストや効果が見えない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、スマート農業を実現するための農業IoT機器の種類や選び方をはじめ、様々な農業分野におけるIoT導入事例、導入ステップやコスト感について詳しく解説します。
目次[非表示]
- 1.スマート農業に必要なIoT機器
- 2.農業・畜産業におけるIoTの導入事例
- 2.1.野菜栽培でのIoT活用事例
- 2.2.果樹栽培でのIoT活用事例
- 2.3.水田管理でのIoT活用事例
- 3.IoT導入のステップガイド
- 3.1.現状分析と課題特定
- 3.2.適切なIoTソリューションの選定
- 3.3.導入コストと投資回収の見通し
- 3.4.段階的導入のロードマップ
- 3.5.活用できる支援制度
- 4.農業が抱える課題をIoTで解決
- 5.まとめ
スマート農業に必要なIoT機器
スマート農業の実現には、栽培環境や家畜の生育環境などの情報を収集するためのセンサー、カメラ、環境を自動でコントロールできるIoT機器が必要です。農業IoTの導入により、これまで経験や勘に頼っていた作業を、データに基づいた科学的な営農に変革できます。
ここでは、スマート農業を実現するための主要なIoT機器とその選び方について紹介します。
センサーやカメラ
農作物の育成には、気候や土壌の水分量、二酸化炭素排出量などの生育環境が影響します。また、畜産業では、家畜の体調や餌の量を把握することが欠かせません。
これらの情報をセンサーやカメラによって取得して可視化することで、環境や生育状況に適した対応を行いやすくなります。
また、遠隔地にいながら24時間・365日のデータを計測できるため、生産者が巡回して計測をする労力を削減できます。さらに、データに基づいた生産管理によって計画的な栽培や飼育が可能になるため、品質の安定・向上、生産性の改善にもつながります。
▼センサーやカメラの活用例
センサーやカメラの種類 |
活用例 |
価格帯(目安) |
---|---|---|
土壌センサー |
田畑の水分量、pH、肥料濃度を計測する |
5,000円〜50,000円 |
温度・湿度センサー |
ビニールハウス内の温度・湿度を計測する |
3,000円〜30,000円 |
IPカメラ |
無線のIPカメラで農作物を遠隔監視して、生育をモニタリングする |
10,000円〜50,000円 |
サーモカメラ |
家畜の体温を計測する |
50,000円〜200,000円 |
CO2センサー |
ハウス内の二酸化炭素濃度を測定し、光合成の効率化につなげる |
20,000円〜80,000円 |
日射量センサー |
太陽光の強さを測定し、遮光カーテンの制御に活用する |
15,000円〜60,000円 |
※価格帯は機種や性能によって大きく異なります。導入前に複数メーカーの製品を比較検討することをおすすめします。
自動制御システム
農作物の栽培設備や畜舎の環境管理設備などを自動でコントロールする自動制御システムは、センサーやカメラから収集したデータと連携することで、人の手を介さずに環境制御を自動化できます。
環境管理のために現場に足を運ぶ必要がなくなるため、農作業の効率化、生産者の負担軽減につながります。
また、データに基づいて栽培設備の制御を自動化することで、知識や経験に頼らない栽培管理が可能です。人手不足や高齢化による技術継承といった課題の解決に貢献します。
▼自動制御システムの活用例
- ビニールハウス内の温度・湿度をセンサーで計測して、換気扇や巻取り装置の開閉を自動で行う
- 土壌の水分量を計測して、水分量が不足している場所に自動で潅水を行う
- 畜舎内の温度をモニタリングして、温度が低い場合はヒーターをつけて、温度が高い場合は換気する
- 光センサーと連動して、日照不足時には補光用LEDを自動点灯させる
- 降雨センサーと連動して、雨天時には自動で雨よけシートを展開する
IoT機器の選び方
農業IoT機器を選ぶ際のポイントは以下の通りです:
- 目的の明確化: 省力化したい作業や改善したい課題を明確にする
- 栽培環境に合わせた選定: 屋外か屋内か、電源やネットワーク環境などを考慮
- 拡張性: 将来的に他のシステムと連携できるかを確認
- 耐久性: 農業環境(高湿度、粉塵、温度変化)に耐えられるか
- サポート体制: メーカーのサポート体制や保証内容を確認
- コストパフォーマンス: 初期投資だけでなく、ランニングコストも考慮
農業・畜産業におけるIoTの導入事例
農業IoTは様々な農業分野で活用され始めています。ここでは、畜産業、野菜栽培、果樹栽培、水田管理におけるIoT活用事例を紹介します。
▼ファーマーズサポート株式会社さまの導入事例
ファーマーズサポート株式会社さまは、畜産をはじめとした一次産業向けにICT・人工知能などを活用したシステムの研究開発や提供を行っています。
この事例では、牛舎にカメラを設置してAIで映像を処理することで、牛の発情や分娩の予兆を自動で検知できるシステムが構築されました。牛の状況を遠隔地から監視できるようになったことで、牛舎の巡回を行う負担が削減されました。
予兆を検知すると畜産農家の方が持っているスマホへ通知がされるため、牛舎の巡回頻度を削減できるほか、分娩のための待機時間も削減できるようになりました。
これにより、農家の業務における負担を削減することができました。
導入効果:
- 分娩監視の労働時間を約70%削減
- 発情発見率が30%向上し、繁殖成績が改善
- 24時間体制の見回りが不要になり、睡眠時間の確保が可能に
▼ファーマーズサポート株式会社さまの事例について、詳しくはこちら
「導入事例:牛の発情・分娩の予兆を検知待機時間や畜産農家の負担を軽減し、収益改善も」
野菜栽培でのIoT活用事例
富山県農園の施設園芸での活用例
トマトやイチゴなどを栽培する本農園では、ハウス内の環境制御システムを導入しました。温度・湿度・CO2濃度・日射量などを常時モニタリングし、最適な生育環境を自動制御しています。
センサーからのデータは専用アプリで確認でき、異常値を検知すると即座にスマートフォンに通知が届く仕組みになっています。また、過去のデータと収穫量の相関を分析することで、最適な栽培環境の指標を見つけ出すことにも成功しました。
導入効果:
- トマトの単収は、先進農家では約20%向上
- イチゴは、炭酸ガスの自動施用により、花芽数の増加や生育が促進した。
【出典】: 農林水産省「スマート農業」
果樹栽培でのIoT活用事例
山梨県果樹園のモモ、スモモ、オウトウ栽培における活用例
当地域のモモ、スモモの収穫量は30,700t、5,420tと一大産地となっています。モモやスモモの多くは、傾斜のある狭小なほ場で栽培されており、薬剤防除や除草作業には多大な労力がかることや、品種ごとに収穫時期が短期間に集中するため、作業労力の分散のため早生から晩生まで多くの品種を導入しており、それぞれの圃場、品種の作業の進捗状況等を適切に把握し、適期管理を行う必要がありました。
今後の産地維持・発展のためには、管理作業の省力化や、ほ場・品種ごとの作業管理の効率化を進める必要がありますが、果樹栽培においては他品目に比べてスマート農業技術の開発や導入が進んでいないのが現状でした。
そこで、この果樹園では、無人防除機、アシストスーツとともに、環境センシングシステムを導入しました。
導入効果:
- 環境センシングシステムによる圃場のリアルタイム環境状態把握
- 作業管理の効率化
【出典】: 農林水産省「スマート農業」
水田管理でのIoT活用事例
宮城県農事組合法人の水田センシングシステム
広大な水田を管理する本農事組合法人では、水位センサーと遠隔水管理制御装置(自動給排水)を田んぼに設置し、遠隔からの水管理システムを導入しました。見回りの効率化により作業時間を39%削減できました。
また、ICTを活用した経営管理システムによる作業記録を導入し、分析の結果、水筒種子生産における10a当たり総労働時間は5.98時間で、平成28年基準値に対して46%削減できました。
導入効果:
- 推移センサーと遠隔水管理制御装置により見回り作業時間を39%効率化
- データの活用により、倒伏の発生を抑え、主もみの契約数量を達成し、品質は全量「合格種子」となった。
【出典】宮城県 : みやぎスマート農業(水田作)活用の手引き
IoT導入のステップガイド
農業IoTを導入するには、段階的なアプローチが効果的です。以下に、IoT導入の基本的なステップを紹介します。
現状分析と課題特定
まずは現在の営農における課題を明確にしましょう。
- どの作業に最も時間がかかっているか
- どの工程で品質のばらつきが生じているか
- どの部分でコストがかかっているか
- 技術継承で困っている点は何か
これらを数値化できると理想的です。例えば「水管理に1日2時間かかっている」「温度管理の失敗で年間10%の収穫ロスが発生している」など、具体的に把握することが重要です。
適切なIoTソリューションの選定
特定した課題に対して、最適なIoTソリューションを選びます。
- 小規模から始めるなら、単機能のセンサーから
- 複数の課題を解決したいなら、統合管理システムの検討
- クラウド型か独自サーバー型かの検討
- 既存設備との互換性確認
選定の際は複数のベンダーから見積もりを取り、機能比較をすることをおすすめします。
導入コストと投資回収の見通し
農業IoTの導入コストは規模や機能によって大きく異なります。一般的な目安は以下の通りです:
導入規模 |
初期投資額 |
年間ランニングコスト |
投資回収期間の目安 |
---|---|---|---|
小規模(センサー数個程度) |
5〜30万円 |
2〜5万円 |
1〜2年 |
中規模(ハウス1棟の環境制御) |
50〜150万円 |
5〜15万円 |
2〜3年 |
大規模(複数ハウスの統合管理) |
200〜500万円 |
20〜50万円 |
3〜5年 |
投資回収の計算には、以下の効果を金額換算すると良いでしょう:
- 労働時間削減効果(時給×削減時間)
- 収量増加効果(増加分の売上)
- 品質向上効果(単価向上分×販売量)
- 資材コスト削減効果(肥料・農薬・水などの削減額)
段階的導入のロードマップ
いきなり大規模な投資をするのではなく、段階的に導入することをおすすめします。
第1段階(3〜6ヶ月):
- 課題の大きい箇所に絞った単機能センサーの導入
- データ収集と活用方法の習熟
第2段階(6〜12ヶ月):
- 制御系システムの導入
- 収集データの分析と営農への活用開始
第3段階(1〜2年):
- 複数システムの連携と統合管理
- データに基づく営農改善の本格化
活用できる支援制度
農業IoT導入時には、以下のような支援制度を活用できる場合があります:
- 農林水産省「スマート農業技術の開発・実証プロジェクト」
- 都道府県の「スマート農業導入支援事業」
- 農業改良資金融通法に基づく低利融資
- 農業経営基盤強化資金(スーパーL資金)
- 各種税制優遇措置(IT投資減税など)
最新の支援制度は各自治体や農林水産省のウェブサイトで確認しましょう。
農業が抱える課題をIoTで解決
農業IoTを導入したスマート農業は、生産者の高齢化や人材不足、異常気象の影響による不安定な生産といった課題を解決する新たな農業として期待されています。
センサーやカメラ、自動制御システムを導入することにより、農作物や家畜の生育環境の計測、管理設備の制御を自動化できます。農作業を省力化できるため、生産者の負担軽減につながります。
また、生育状況・栽培環境をリアルタイムで計測することで、天候不順や自然災害、病害発生などのリスクを迅速にキャッチして、適切な対策がとれるようになります。
さらに、IoT機器で取得したデータを蓄積・分析して、栽培に必要な技術・知識・判断などを数値化することも可能です。これにより、知識や経験に頼らない再現性のある生育管理体制を構築して、新規就農者への継続的な栽培技術継承に役立てられます。未経験の人材に対して就農の敷居を下げることで、担い手の獲得も期待できます。
まとめ
今回は、農業の課題を解決へ導く農業IoTとスマート農業の実現を検討中の方に向け、次の項目について解説しました。
- スマート農業に必要なIoT機器とその選び方
- 様々な農業分野におけるIoTの導入事例と具体的な効果
- IoT導入のステップと投資対効果の考え方
- 農業のIoT活用に期待されていること
農業・畜産業で活用できるIoT機器には、生育状況や栽培環境などのデータを収集するセンサー、カメラのほか、栽培設備や畜舎の環境管理設備を自動制御するシステムなどがあります。
農業IoTの導入には一定の投資が必要ですが、段階的に進めることで無理なく実現できます。また、各種支援制度を活用することで、初期投資の負担を軽減することも可能です。
IoT機器やシステムの導入により、高齢化や人材不足をはじめとする農業の課題を解決に導きながら、農作物・畜産物などの安定した生産や品質の向上につなげられるようになります。
「スマート農業を実現して業務の負担を削減したい」「異常気象に左右されずに品質を安定させたい」という場合は、農業IoTの活用を検討してみてはいかがでしょうか。
【参考サイト】
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