DX推進ガイドラインとは? 2つの構成要素とポイント
近年、企業におけるDXの取組みが加速しています。経済産業省の『デジタルトランスフォーメーションを推進するための ガイドライン』では、DX推進の指針やポイントがまとめられています。
企業の経営者やDX推進に携わっている方は、DX実現に向けた取組みを行うにあたって、ガイドラインの要点・内容について理解しておくことが重要です。
この記事では、DX推進ガイドラインとは何か、2つの構成要素とポイントについて解説します。
DXとは
DXとは、Digital Transformation(デジタル・トランスフォーメーション)の略で、“デジタル技術による変革”という概念を指します。経済産業省が公表した『「DX 推進指標」とそのガイダンス』では、DXについて以下のように定義されています。
▽DXの定義
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること
引用元:経済産業省『「DX 推進指標」とそのガイダンス』
DXはデジタル技術やデータを活用して、顧客体験や働き方などの従来のビジネスモデルを変革させることを意味しています。
先行きが不透明な現代において、企業が市場の優位性を確立していくには、消費者のニーズに柔軟かつ迅速に対応していくことが求められます。
また、近年ではあらゆる産業でデジタル技術を取り入れた新たなビジネスモデルを展開する企業が登場しており、ゲームチェンジが起ころうとしています。
このような変化に対応して、企業の競争力を強化していくには、デジタル技術やデータ活用を通してビジネスモデルを変革するDXの取組みが必要です。
出典:経済産業省『「DX 推進指標」とそのガイダンス』『産業界におけるデジタルトランスフォーメーションの推進』
DX推進ガイドラインの概要
DX推進ガイドラインは、企業がDXを推進するうえで必要となる指針や取組みについてまとめたものです。2018年に経済産業省によって公表されました。
ビジネス環境が目まぐるしく変わる現代においては、企業におけるDXの取組みが求められます。しかし、社内の既存システムが老朽化・複雑化・ブラックボックス化している場合、それらが新たなデジタル技術の導入やシステム構築の障壁となってしまいます。
仮にデジタル技術を導入したとしても、データ活用・連携が限定的になったり、既存システムの保守・運用にコストやリソースが必要になったりするといった問題が起きることもあります。
企業が本格的にDXを進めていくためには、経営層の理解をはじめ、DXの基盤となるITシステム構築に関する体制の整備・知識が必要不可欠です。
DX推進ガイドラインでは、DXにおける経営のあり方やシステム構築など、経営者が押さえておくとよい事項が明確に示されています。このガイドラインを活用することで、企業のDX実行の一助となることが期待されます。
出典:経済産業省『デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)』『産業界におけるデジタルトランスフォーメーションの推進』
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DX推進ガイドラインの2つの構成要素とポイント
経済産業省が公表した『デジタルトランスフォーメーションを推進するための ガイドライン』は、大きく2つの要素で構成されています。
- DX推進に向けた経営のあり方・仕組み
- DXの基盤となるITシステムの構築
画像出典元:経済産業省『産業界におけるデジタルトランスフォーメーションの推進』
ここでは、それぞれの要点について解説します。
①DX推進に向けた経営のあり方・仕組み
1つ目は、DXを推進していくなかで必要とされる、企業の方針や戦略、実行のための社内体制などについてです。
企業のDXを実現するためには、デジタル部門やDX推進部の設置だけではなく、自社のビジネスをどのように変えるかといった経営の方向性を定めることが重要です。
明確な経営戦略・ビジョンの掲示
DXの実現によってどのようにビジネスモデルを変革するか、経営戦略やビジョンを定める必要があります。
やみくもにデジタル技術を取り入れるだけでは、技術の活用がゴールとなってしまい、新たな価値創出につながらないおそれがあります。そのため、DXの取組みを始める前には、具体的な目標・方法・行動を定めて明確化することが重要です。
▼具体例
- DX化による企業としての最終目標を社員に掲示する
- 新たに獲得したい顧客層や売り上げ目標、コスト削減目標を設定する
- 自社で確立したい事業分野と市場におけるポジションを設定する
出典:経済産業省『デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)』
経営トップのコミットメント
DXの実現には、企業の文化や風土、組織の仕組みなどの根幹を変革する必要があります。組織一体となってDXを推進するには、企業のトップとして経営層が現場を率いることが欠かせません。
DXの取組みに対して、従業員の意識形成や積極的な行動を促すためには、経営層が先頭に立って取り組む姿勢が必要です。
▼具体例
- 現場の課題について従業員にアンケートを行い、新たな業務ツールの導入やプロセス改善を計画する
- 従業員の反対意見を集約したうえで、経営トップがリーダーシップを取り意思決定を行う
出典:経済産業省『デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)』
DX推進のための体制整備
DXを推進するには、組織横断的かつ中長期的な取組みが必要です。失敗を恐れて行動に移さなかったり、仮説を立てないまま実行したりすると、DXに向けた取組みが形骸化してしまうおそれがあります。
DX推進を積極的に行い、現場での実効性を担保するためには、各部門・部署が円滑に連携を図り、運用やシステム管理などをサポートする体制を整えることが重要です。
また、新たなデジタル技術やデータ活用を進めるにあたって、各部門において新たな挑戦に取り組める環境を整えることも欠かせません。
▼具体例
- 新たにDXの推進を行う部門・チームを設置する
- デジタル技術やデータ活用について知識・知見のある人材を育成または採用する
- 仮説検証を実行できる仕組みをつくる
出典:経済産業省『デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)』
投資等の意思決定のあり方
DX推進を行ううえで必要になる投資および予算について、適切な意思決定を行う必要があります。どのような基準で投資判断や予算設定を行うか、社内での指標を持つことが重要です。
投資の意思決定において考慮する内容には、以下が挙げられます。
▼具体例
- 投入コストだけではなく、ビジネスに与えるプラスのインパクトを勘案しているか
- 定量的なリターンとその確度を求めすぎるあまり、挑戦を阻害していないか
- DXに投資しないことで、デジタル化する市場から排除されるリスクを勘案しているか
スピーディーな変化への対応力
ビジネスモデルの変革を目指すにあたって、目まぐるしく変化するビジネス環境にスピーディに対応できる環境を構築することが重要です。
企業には、経営状態・消費者ニーズなどの現状をつねにチェックして、すばやく方向転換や事業拡大ができることが求められます。
経済産業省『デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)』
②DXの基盤となるITシステムの構築
2つ目の構成要素は、実際にDXを推進するうえで基盤となる、ITシステムの構築体制・プロセスなどです。
それぞれの要点について、詳しく解説します。
【体制・仕組み】全社的な IT システムの構築のための体制
DXの推進にあたって、システム・ツールを導入する際は、組織横断的にデータ活用ができる環境を構築する必要があります。
また、経営戦略を実現するために必要なデータとその活用、それに適したITシステムの全体設計ができる体制・人材を確保することも重要です。
▼具体例
- DX推進部門や情報システム部門を組成する
- 社外の事業者と連携して、ITシステムの構築やデータの利活用を行う
- ITシステムの保守管理ができる部署・人材を確保する
経済産業省『デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)』
【体制・仕組み】全社的な IT システムの構築に向けたガバナンス
社内のITシステムを構築するにあたっては、既存システムの状況や課題について把握したうえで、ガバナンスを確立することが重要です。
また、新たなITシステムと既存システムとの円滑な連携を確保しつつ、導入後の複雑化・ブラックボックス化を防ぐ必要があります。そのためには、企業自身によるシステム導入計画の立案と要件定義が欠かせません。
ガバナンスの確立や企画立案・要件定義を行わない場合、以下のように失敗してしまうケースがあります。
▼具体例
- ベンダー企業からの提案をうのみにしてしまう
- 実績のあるベンダーからの提案であれば問題ないと判断してしまう
経済産業省『デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)』
【体制・仕組み】事業部門のオーナーシップと要件定義能力
導入するITシステムや運用体制を検討する際は、社内の各部門がオーナーシップを持ち、DXで実現したい事業・業務企画を明確にする必要があります。
新しいITシステムを構築・刷新する際は、ベンダーに丸投げせずに、自社の部門・チームが主導権を持つことが重要です。そのためには、事業計画や要件定義を行い、ベンダーの提案を踏まえたうえで意思決定を行います。
各部門がオーナーシップを持たずにITシステム構築を進めると、以下のように失敗するケースがあります。
▼具体例
- 情報システム部門任せになり、事業部門にとって有益なITシステムになっていない
- ベンダー企業が情報システム部門としか話ができず、各部門の声を聞けない
- 要件定義を請負契約にする際、企業が自社のITシステムを把握ないまま、ベンダー企業に丸投げになってしまう
- 既存のITシステムの仕様が分からないまま、現行機能の稼働保証を要望する
【実行プロセス】IT 資産の分析・評価
DXに向けてITシステムを構築する際は、現状のシステムや利用状況などを把握しておくことが重要です。
まずは、既存システムやソフトウェアなどのIT資産を洗い出して、評価する必要があります。評価したIT資産を機能ごとに分類することで、システムの再構築や不要なIT資産の廃棄などが検討できるようになります。
経済産業省『デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)』
【実行プロセス】IT資産の仕分けとプランニング
どのようなITシステムを導入・再構築するとよいか、分析・評価したIT資産に対して具体的な仕分けとプランニングを行います。
その際、バリューチェーンの強み・弱みを踏まえてビジネスモデルを変革する領域を見極めたうえで、それに適したシステム環境を検討することが重要です。
また、全社横断的なデータ活用ができるように、システム間の連携を考慮することも欠かせません。非競争領域となるIT資産については、標準パッケージや業種ごとに共通プラットフォームを利用するといった競争領域のリソース配分を図ります。
そのほか、経営環境の変化に伴って利用しなくなったIT資産については、廃棄を検討する必要があります。
▼具体例
- 使用していないシステムやツールを廃棄する
- システム刷新後に再度ブラックボックス化してしまうのを防ぐために、業務の簡略化や標準化を行う
- 標準化したITシステムに合わせて、業務や製品自体の見直しを図る
出典:経済産業省『デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)』
【実行プロセス】刷新後の IT システム:変化への追従力
刷新後のITシステムには、ビジネスモデルの変化に迅速に対応できる新たなデジタル技術が導入されていることが求められます。
そのためには、ITシステムの導入をゴールとせずに、ビジネスがよい方向に変わったかどうかを基に評価する仕組みが必要です。
評価の仕組みが整っていない場合、以下のように失敗してしまうケースがあります。
▼具体例
- 刷新するITシステムの導入目的を明確に設定しなかった結果、システムの刷新自体が目的化してしまい、DXにつながらない
出典:経済産業省『デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)』
まとめ
この記事では、DX推進ガイドラインについて、以下の項目で解説しました。
- DX推進ガイドラインについて
- DX推進ガイドラインの2つの構成要素とポイント
DX推進ガイドラインでは、企業の経営者に必要とされるDXに対する基本的な考えやシステム構築に向けた体制・取組みなどが示されています。
企業が本格的にDXを推進するためには、経営戦略・ビジョンを掲げて、社内の意識や行動の方向性を定めることがポイントです。
また、ITシステムの見直しについては、組織横断的に取り組むための社内体制の整備、仕組みの構築なども求められます。
DXの推進には、明確な目的を設定して、その目的を達成するためにどのようにシステム刷新を行うかを見極めることがカギといえます。
さらに、DXの実現には、IoTやICTなどの違いを把握して活用することが重要です。「DXとIoT・ICTの違いについてよく分からない」という方は、こちらの記事も参考にしてみてください。