エッジAIとクラウドAIとは? メリット・デメリットや違い
※2022年12月9日更新
AI(人工知能)とは、人間が持つような知能をコンピュータ上で人工的に再現したシステムやソフトウェアのことです。
近年、製造業や自動車産業、農業、医療業など、幅広い分野でAIが取り入れられています。そうしたなか注目を集めているのが、クラウドAIとエッジAIです。
AIの導入を検討しているものの「自社の課題はクラウドAIとエッジAIのどちらで解決できるのだろうか」「そもそも違いが分からない」と疑問を持つ担当者の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、それぞれの基礎知識やメリット・デメリット、両者の違いについて解説します。
目次[非表示]
クラウドAIとは
クラウドAIとは、AIが搭載されたクラウドにデータを送信して、学習・推論する技術のことです。
クラウドAIでは、IoT機器やセンサーなどの端末から収集した大量データを、インターネットを通じてクラウドに送信します。そして、クラウド上のデータセンターにあるCPU(Central Processing Unit:中央処理装置)やGPU(Graphics Processing Unit:画像処理装置)で高速処理して学習・推論を行ったのち、判断を端末に送る仕組みです。
▼クラウドAIの活用シーン
- 機械・設備の予知保全
カメラや振動センサーを用いて、機械・設備の稼働状況・温度などのデータをクラウドAIで監視します。AIによって不審な動きを検知して、故障や停止を未然に防ぐことが可能です。
- 商品の需要予測
店舗の売り上げデータを蓄積して、クラウドAIで売り上げ状況や来客数を分析します。売り上げデータに基づいた需要予測により、生産管理や在庫管理に役立てられます。
- 農作物の栽培管理
生育状況・温湿度・日射などの栽培データをクラウドAIが分析・学習することによって、適切な培養液の濃度、潅水時間などを推測します。農作物の管理作業にかかる負担の軽減、収穫量や品質の安定化につながります。
クラウドAIのメリット・デメリット
ここからは、クラウドAIのメリット・デメリットについて解説します。
メリット
クラウドAIには、複雑な処理の実行や端末にかかる負荷を軽減できるなどのメリットがあります。ここでは、2つの主なメリットを紹介します。
①大容量かつ複雑な処理ができる
クラウドAIでは、クラウド上でデータの蓄積や推論を行います。そのため、パソコンでは処理が難しいような大容量で複雑なデータの処理にも対応できるメリットがあります。
②サーバや端末への負荷を抑えられる
学習・推論がクラウド上で行われるため、サーバや端末にかかる処理の負荷を抑えられることもメリットです。サーバや端末そのもののコストと管理の負担軽減につながります。
デメリット
一方、クラウドAIには把握しておきたいデメリットもあります。
①インターネット環境に依存する
クラウドAIでは、インターネット経由でクラウド・端末間のデータ送受信が行われます。そのため、膨大な量のデータを扱う際は、送受信や処理の際に遅延が発生する可能性があります。
また、クラウド・端末間での膨大なデータのやりとりによって、通信コストが増えることがある点もデメリットの一つです。
②セキュリティリスクが高まる
クラウドAIがインターネット経由でやりとりした膨大なデータは、クラウド上に保存されます。これにより、情報漏えいやサイバー攻撃などのセキュリティリスクが高まることにも注意が必要です。
エッジAIとは
AIが搭載されたクラウドにデータを送信するクラウドAIに対して、エッジAIとはIoT機器やセンサーなどの端末にAIを搭載して、端末が学習・推論を行う技術のことです。
端末で収集したデータを基に端末内で推論を処理して、瞬時に判断を出します。その後、端末で処理したデータをクラウド上に送信して、学習モデルを作成・学習用データを保存する仕組みです。
現時点において、エッジAIのみを用いたシステムの実現が困難であることから、エッジAIとクラウドAIを組み合わせたハイブリッド型の活用が一般的です。
▼エッジAIの活用シーン
- 製造設備の監視
エッジAI搭載のセンサーにより、工場内の設備をリアルタイムで監視できます。稼働状況の軽微な変化を検知して、設備の故障・停止を防止することが可能です。
- 顧客の行動分析
店舗や施設に設置したエッジAI搭載のカメラで、顧客の行動データを分析します。顧客の回遊経路を分析することで、商品のレイアウト変更や商品棚の見直しに役立てることが可能です。
- 建設現場の安全管理
エッジAI搭載のゲートウェイにより、工事用の建機や特殊車両の稼働情報を入手できます。工事中の状況をリアルタイムで遠隔監視することで、作業員の安全管理に役立てられます。
▼関連記事
エッジAIのメリット・デメリット
ここでは、エッジAIが持つメリット・デメリットを紹介します。
メリット
エッジAIのメリットとして、リアルタイムな判断や通信コストの削減、セキュリティ強化が挙げられます。
ここでは、エッジAIの3つのメリットを紹介します。
①リアルタイムな判断ができる
エッジAIは、AI処理を端末側で行うため、判断を出してから受け取るまでのタイムラグが発生しないメリットがあります。これにより、端末制御や状況把握をリアルタイムで行うことが可能です。
②通信コストを削減できる
エッジAIは、端末側で処理したのちに学習に必要なデータのみをクラウドへ送信します。端末内のすべてのデータを送るクラウドAIよりもデータ容量が小さくなるため、通信コストを抑えられるメリットがあります。
③セキュリティを強化できる
推論と学習を異なる場所(端末とクラウド)で行うエッジAIは、情報漏洩のリスクが懸念される重要データを端末内に留めながら処理することが可能です。
インターネットを経由せずに処理することで、ネットワーク環境のセキュリティを強化できます。
デメリット
次に、処理能力の限界や導入ハードルなど、エッジAIの注意したいデメリットについて紹介します。
①処理能力に限界がある
端末の大きさや消費電力を考慮すると、端末に搭載できるリソースには限界があります。
エッジAIで使用するCPUやGPUは、クラウドAIに比べてスペックが低いため、大容量データの処理が難しいというデメリットがあります。また、推論と学習が異なる場所で実行されるため、高度で複雑な処理ができません。
②導入・運用のハードルが高い
エッジAIは端末にAIを搭載するため、システム設計や保守運用が複雑化しやすく、運用のハードルが高いというデメリットがあります。
これらのデメリットから「エッジAIの導入に踏み切れない」と感じている場合は、使用するゲートウェイを見直すことも一つの方法です。
クラウドAIとエッジAIの違い
クラウドAIとエッジAIは、学習や推論を行う場所に違いがあります。
クラウドAIは、端末ではデータ収集のみを行い、学習や推論はすべてクラウド上で行われます。これに対してエッジAIは、端末内で推論を行い、必要なデータのみをクラウドに送信して学習を行います。
学習・推論を行う場所や処理能力、リアルタイム性、セキュリティなどを比較すると、以下のようになります。
▼クラウドAIとエッジAIの違い
クラウドAI |
エッジAI |
|
学習・推論を行う場所 |
クラウド上 |
端末内(学習モデルの作成はクラウド上) |
処理能力 |
大容量データ、高度な計算・判断が可能 |
大容量データや高度・複雑な処理が難しい |
リアルタイム性 |
クラウド経由で処理を行うためタイムラグが発生する |
端末内で推論するため、リアルタイムな判断が可能 |
セキュリティ |
クラウド経由のため、不正アクセスや情報漏えいのリスクがある |
端末側でデータ管理を行うため、セキュリティを強化できる |
クラウドは、自社にサーバやITシステムを経由せずに、インターネット経由で利用する運用形態を指します。サーバやシステムの保守点検もベンダー側で実施されることが特徴です。
一方のオンプレミスは、サーバやソフトウェアなどを社内に設置して、システム構築、保守点検を自社で行う運用形態です。自社の運用体制に応じて柔軟にシステムをカスタマイズできるほか、セキュリティ対策も自社で行えることが特徴です。
ただし、オンプレミス環境でのシステム構築には費用・時間がかかるほか、保守点検やトラブル対応の負担も大きくなりやすいといった注意点もあります。
5Gの普及でAI活用はどう変わる?
次世代の移動通信システムとなる5Gの普及によって、さまざまな分野でAIやIoTの活用が広がることが期待されています。
5Gとは、“第5世代移動通信システム”のことを指します。4G(第4世代移動通信システム)に代わる次世代の移動通信システムとして、2020年3月に商用サービスが開始されました。
5Gの性能には、以下の3つの特徴があります。
▼5Gの性能
超高速通信 |
約10Gbps(最高伝送速度) |
超低遅延 |
約1ミリ秒程度 |
多数同時接続 |
約100万台/km2 |
4Gと比較すると、通信速度は約10倍、遅延は約10分の1、同時接続できる端末数は約10倍となります。
現在、国内では4Gが居住人口の99.99%をカバーしていますが、5Gの展開に必要な光ファイバの世帯カバー数は98.8%に達している状況です。このような背景から、既存のICT基盤を活用して5Gの展開が進められており、2023年度末には5Gの基盤展開率は98%以上になることが予定されています。
さらに、通信キャリアが展開する5Gのみならず、企業や自治体が独自で5Gのシステムを構築できる“ローカル5G”も登場しています。
このように5Gが普及すれば、IoT機器の多数接続や大容量データの通信が可能になることから、AI・IoTのさらなる活用が期待できます。
特にクラウドAIはインターネット環境に依存する点がデメリットですが、5Gを利用すれば、大容量データの通信も可能になることが期待されます。
5Gの活用によって、以下のようなAI・IoT活用が実現すると考えられます。
▼5GによるAI・IoT活用例
分野 |
活用例 |
産業 |
産業用ロボットやIoTセンサーを工場の関連業務に活用したスマートファクトリー |
インフラ |
自動運転システムの導入 |
防災 |
映像センサーによる自然災害の把握、避難経路情報の共有 |
建設 |
建設機器の遠隔・自動操縦、ドローンによる高精度な測量 |
農業 |
農業用センサーによる情報収集、給餌ロボット、散水・薬剤散布ドローンの導入 |
5Gの詳細は、こちらの記事で解説しています。併せてご一読ください。
出典:総務省『第5世代移動通信システム(5G)の今と将来展望』/GO!5G『GO!5G|第5世代移動通信システム推進プロジェクト』『ローカル5G導入の手引き』『世界最高水準の5Gの実現へ』
AI×IoTの導入効果
AIとIoTを組み合わせることで、人を介さずに機械を自動制御することや、データの処理や分析・予測することもできるようになります。
設備・機器に設置したIoTから取得したデータを用いて、AIが分析・処理することで、以下のような対応が可能です。
▼AIとIoTの導入によってできること
- 予測データの提示
- 故障・不具合の検知
- 一定の条件での機械制御
このような仕組みを活用すれば、製造業や農業などのさまざまな分野での業務に
役立ちます。
▼AI×IoTの活用例
- 製造機器の圧力や温度をIoTセンサーで測定して、AIが自動で制御を行う
- 設備の通常稼働データをAIに学習させて、異常があった場合にアラートを出す
- 気温・温度・日射量などをIoTセンサーが計測して、データをもとにAIが収穫予測・栽培管理を行う
- 道路に設置したカメラから画像データを収集して、AIが交通障害を自動検知する
総務省の『令和3年情報通信白書』によると、IoT・AIのシステム・サービスを導入した企業のうち、効果があったと回答した割合は81.1%に達しています。
▼IoT・AI等のシステム・サービスの導入効果
画像引用元:総務省『令和3年情報通信白書』
なお、IoT・AIを活用する目的としては、業務の効率化・改善、顧客サービスの向上、事業の全体最適化などが挙げられています。
出典:総務省『令和3年情報通信白書』
クラウドAI・エッジAIを活用したソリューション
コネクシオでは、AIやIoT技術を活用してお客さまの課題解決へ導く各種ソリューションをご用意しています。
ポンプ設備の安心パック
コネクシオの『ポンプ設備の安心パック』は、エッジAI搭載センサーによってポンプを遠隔監視するIoTシステムです。
ポンプ設備の予知保全により、故障やライン停止を防ぐとともに、保守管理をリモート化することで保全コストの削減にもつながります。
回転機のAI予知保全
コネクシオの『回転機のAI予知保全』は、クラウドAIを活用した回転機の監視システムです。
回転機に設置した無線振動センサーで振動データを収集して、AIが異常を察知して通知を行います。AIによる一元監視で点検・監視業務を省人化できるうえ、予知保全による安定稼働を実現できます。
CONEXIOBlackBear
コネクシオの『CONEXIOBlackBear』は、端末から発生したデータを端末側で分散処理するエッジコンピューティングの機能が備わったゲートウェイです。
データのすべてをクラウド側へ転送することなく端末側で処理するため、制御・状況把握のリアルタイム性を確保できます。
また、学習モデルの作成に必要なデータは、クラウド上へ送信するといった使い分けができるため、通信コストの削減やセキュリティの強化にもつながります。エッジAIの活用に向けて導入を検討されてはいかがでしょうか。
まとめ
この記事では、クラウトAIとエッジAIについて以下の項目で解説しました。
- クラウトAIの概要とメリット・デメリット
- エッジAIの概要とメリット・デメリット
- クラウトAIとエッジAIの違い
- 5Gの普及によるAI活用について
- クラウドAI・エッジAIを活用したソリューション
クラウドAI・エッジAIは、端末から収集したデータを処理して、学習・推論を行う技術のことです。
クラウドAIは、大容量かつ複雑な処理が可能ですが、リアルタイム性や通信コストの面に懸念点が残ります。一方、エッジAIはリアルタイム性や通信コスト、セキュリティ面に長けていますが、端末のみの処理能力には限界があります。
両者のデメリットを補いつつメリットを生かすには、エッジAIとクラウドAIを組み合わせたハイブリッド型の活用が有効です。
コネクシオでは、エッジAIとクラウドAIを組み合わせたハイブリッド型の環境構築に役立つソリューションを提供しています。工場内の環境構築に向けて、『CONEXIOBlackBear』の導入もぜひご検討ください。